はち

6+1人と日々の雑記

【感想】2/6 マニアック ※追記あり

昼公演を観劇した。2階席だったのだけどそんなに遠い感じはせず、ど真ん中だったおかげもありすごく見やすかった。

キャストさんの演技はもちろん、随所随所で披露される歌でもただただ圧倒された2時間半だった。声の圧力がすごい。それが生演奏に乗せて届けられるのだから最高の空間である。

安田さんの歌声もたくさんたくさん聴けて本当に幸せだった。声は安田さんでも歌い方はライブなどで見るものとは違っていて、犬塚アキラが歌ってる、と感じた。表現の幅がすごい。あとツアーのときよりも格段に動けるようになっていて、嬉しかったし安心した。衣装が終始萌え袖になっててかわいいの極み。ただでさえつなぎ服が大好きで性癖に刺さりまくっているのに、強烈な上乗せである。罵倒するシーンは尼感が増し増しで最高にガラが悪くてたまらない。

さて、記憶力がポンコツなのですでに朧げになりつつあるけれど、その中で精一杯の感想と考察を残そうと思う。ここから先は一切内容のネタバレに配慮していないので、観劇がこれからの方はご注意あれ。

 

 

劇中でもアキラが言っていたけれど、この作品は台無し感がすごい。音楽劇「マニアック」を一言で表すなら?と訊かれたら、わたしは「台無し」と答える。一幕で積み上げてきたキャラや関係性等々を二幕ですべてぶっ壊して、その破片を散らかしたまま終わった。そんな印象である。まさかアキラとメイ以外の全員が死ぬとは思わなかったし、結局メイから逃げるなんて思ってもみなかった。

メイはまともな人間かと思いきや、二幕でとんでもない奇病であることが発覚するわけだけど、そもそも「マニアック」の世界におけるまともな人間とはなんだろうか。人体実験に夢中な院長、そんな院長に心酔する甘木婦長、やたらセクシーな小神田看護師、パニック障害の花旗さんなど曲者揃いの面々の中、アキラだけは"普通の人"という設定である。だがこんな曲者まみれの世界にあっては、逆説的に"普通"であることも曲者であり得るのではないだろうか。WSで安田さんが「自分ではまともだと思っている」という旨の話をしていたが、まさにそれだ。無くて七癖、自分の普通が他人にとってのマニアックかもしれない。パンフレットでも「アキラだけはまとも」が散りばめられていて、それも狙いのうちだとしたら恐ろしい。

キービジュアルにおいても、アキラだけが違う服装をしている。主役だからと言ってしまえばそれまでだけど、ヒロインであるメイと、病院における支配者である院長も拘束服なのが気になった。メイは院長の庇護下にあると考えれば拘束服でもいいかもしれないけど、院長も拘束されているということは他に黒幕がいるのかなあなんて、キービジュアルが公表された当時は考えていた。

ここでマニアックという言葉について考えてみる。ネットで検索すると、"あることに異常に熱中し精通しているさま"とあるが、英語のmaniacには"狂人"という意味もあるようだ。人物によって前者と後者のどちらが近いかは様々だが、今作におけるマニアックの定義も上記で問題ないだろう。そしてフライヤーに書かれている「これってものを見つけたら 気が狂うほど 愛し抜け」は劇中歌でも登場するフレーズだが、これを「マニアック」のキャッチコピーと捉えるなら、愛し抜いた結果狂ってしまった人たちがマニアックであり、その執着の比喩が"拘束"なのかもしれない。自らの意思で逃れられないと考えれば、拘束と例えるのも極端に的を外してはいないと思う。

アキラ以外のキャスト陣を拘束しているのはベルトであるが、よくよく見るとアキラもベルトをしている。シャツの上からなので本来の用途からは外れているこれが、拘束されている面々のベルトと同じであるなら、アキラもやはりマニアックということになる。しかしその大半はベストで隠されており、即ち潜在的なマニアックあるいは誰でもマニアックになり得ることを示しているのではないだろうか。つまり、やはり「マニアック」にはマニアックしかいないのだ。

ただマニアックたる所以があまり見えてこなかった人物もいるため、以上の考察が成り立たない部分もある。ユタカの奇病はメイにうつされた後天的なものであるし、花旗妻や名もなき看護師さんたちは一人を除いていまいちキャラがわからない。ユタカの場合は奇病というよりも、欲情したときにあそこまで大きくなることの方かもしれないが。メイも奇病に気を取られそうになるが、大量虐殺の起きた後すぐにアキラに「一緒に暮らしましょう」と言ってしまえるあたり、彼女自身も相当やばい。アキラに執着するような印象も受けた。 

ところでメイの病気、インターン先でいろんな人にうつしてきたってことは、すでに世に蔓延しているのでは…。驚異の感染力と数時間の潜伏期間じゃ、未来の話じゃなくてすでに蔓延っていそう。話の本筋とは関係ないけどふと思った。

 

二幕以降の展開とオチが強烈過ぎて忘れそうになるが、ただの変人ドタバタ劇でなく、ただのヒロイン救出系勧善懲悪ストーリーでもないところが「マニアック」の深みを増していると感じた。院長の所業は"常識"で考えるととんでもない犯罪行為だが、彼の主張にあるように、どうにもならないやつを野放しにしないことで救われた命があるかもしれないことも事実だ。そうすると院長の主張も単純に悪とは言い切れなくなってくる。彼なりの信念に基づいて人のために始めたことを、"常識"から外れているからという理由で否定するのは"善"と言えるのだろうか。アキラの言い分にも院長の言い分にも一理あるのだ。自分の価値観だけでは物事や善悪ははかれない。

現代社会においても、凶悪な犯罪者に対して極論を投げつける人はいる。良くも悪くも匿名性の高いネット社会において特に顕著だ。最終的に自死した看護師さんは、「影が薄いから一発かました(意訳)」といった理由で人を殺めたが、同様に「むしゃくしゃしたからやった」「話題になりたくてやった」という傍から見ると理不尽な理由で事件を起こす犯罪者もいる。「マニアック」の世界は見た目は違えど、中身は現実に起きていることと大差ないのだ。

パンフレットに「不道徳」を振りかざしたとあるが、道徳を知らなければ「不道徳」は語れない。命や犯罪という、万人が共通認識を持ちやすい題材を用いたからこそできたことだと思う。道徳をしっかりと踏まえた上で振り切れているから、「マニアック」の「不道徳」はおもしろいのだ。

 

 あと印象に残ったのが甘木婦長。ぶりっ子を飛び越えて小さな子供のようなキャラはセクシーな小神田看護師との対比なのだろうが、普通に話しているシーンもあることから明らかに自ら作っているキャラ設定だろう。実際、小神田看護師に負けじとセクシーなポーズをとる場面もあった。「(院長への忠誠心が)ブレねえ!」と言われた甘木婦長が自らのキャラはブレブレだったのがおもしろい。

 

 

…とまあいろいろ考えながら観ていたのだけど、最後の最後にすべて台無しにされて「やられた!」という気持ちである。ちくしょう、やりやがったな!

 

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【追記】

ご縁がありもう1回観劇することができたので、今更ながらそこでの気づきと修正を少し。

 

・メイは初めは「大量出血で意識を失う」と言っていたけれど、おそらく奇病による欲情は出血量に関係なく起きていると思われる。アキラの傷の手当てをするときの妙な間が物語っている。

・その手当てのシーンでもうひとつ、"点々舐めで傷口を見れば大丈夫"となったけど、傷口は刃物によるものなのでおそらく直線。それを点々舐めで見た場合、もしかしたらアレのように見えるのでは。そのおかげでメイの興奮も少し緩和されたのではないかと邪推。ただ、点々は十字型なのでこれは邪推すぎるかも。

・小神田看護師のマニアックは院長かと思っていたけど、給料が上がって人が変わったようなことを姉が言っていたから、もしかしたらお金かもしれない。

・花旗妻のマニアックは体型。寿くんが思いっきり言ってた。

・"性犯罪者は治らない"は寿一派を指してるものだけど、メイも含まれてしまうのかもしれない。"きれいな顔"だからある意味許されただけで、不特定多数と行為をして自分の奇病をうつしてきたって立派な逆レ◯プなのでは。"マニアックは治らない"とも歌ってるけど、そりゃ狂ってしまってるんだから治るわけない。当人たちに治す気がないんだから。

・花旗さん生き残ってた。勝手に殺してごめん。

 

安田さんに関しては、歌声がパワーアップしていて驚いた。全く違うと言っても過言ではないくらいに進化していた。声の圧がすごい。素人の感想だが、喉が全開で腹の底の底から声が出ているようだった。まるで衝撃波のような、ぶっとい声。驚きすぎてぽかんと口が開いた。そして震えた。この短い期間でこんなにも変わるなんて、本当にとんでもない人だ。とんでもない人を好きになってしまった。

 

音楽劇「マニアック」は素晴らしい舞台だった。最高と最低が次々と押し寄せて、相反するものなのに奇妙に混ざり合った舞台だった。いろいろなものが濃縮された2時間半、とても楽しかった!

皆様怪我なく終えられて何よりです。全40公演お疲れ様でした!最低で最高の「マニアック」をありがとうございました!!